2015/07/16

中高年ランナーのトレーニング

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人よりも優れた反射神経や俊敏性、爆発的なパワー、特殊な技術などが必要のないマラソンは、年をとっても末永く続けられるスポーツですが、やはり加齢とともに走力はどんどん落ちてきます。

2008年度全日本マラソンランキングからの分析によると、マラソンの走力のピークは28歳頃で、それ以降、年々走力は落ち、その落差は28歳~70歳の間に、1歳増えるとフルマラソンのタイムが約1分30秒落ちるとのこと。
50歳と30歳のランナーは20歳違うので、加齢の影響によるタイム差は30分。つまり、加齢での落差分を差し引くと、50歳のサブスリーランナーは30歳のランナーからすると、2時間半を切るタイムを叩き出すほどの力がある、エリートランナーということになります。年寄りの高記録保持者はすごいのと同時に、年寄りのレベルアップは非常に過酷だということですね。

中高年ランナーは、自己ベスト更新どころか、現状維持も厳しくなるわけで、単純に考えれば、昨年と同じトレーニングをしただけでは、自己ベストが1分30秒落ちることになります。
走力がまだ低いサブ4レベルであれば、歳をとっても自己ベスト更新は十分可能で、15分や20分という大幅なタイム短縮も可能ですが、レベルが上がるにつれてハードルは高くなり、そう簡単にタイムの更新ができなくなります。サブ3に近い、あるいはすでに2時間台で走れるレベルのランナーの場合は、わずか数分の更新も難しくなり、レースだけでなく、トレーニングメニューでも、去年の自分に追い付けない状態になったりします。
だからといって、昨年よりももっとハードにトレーニングをすると、故障をしたり体調を崩したりするし、疲労感も増して回復も遅くなってしまいます。

今の私がまさにその状態で、頑張れるのは気持ちだけ。全然身体がついていかなくなり、気力に任せてハードなトレーニングに取り組むものの、その回復が異常に遅くなってきました。完全休養しても、翌日も似たような疲労感が続いてしまいます。
そのため、トレーニングメニューの見直しが必要になってきました。

『42.195KM トレーニング編』の本に、このようなデータが載っていました。
(楽天ブックスはこちら『42.195KM トレーニング編』

"全身持久力の指標である最大酸素摂取量は、平均的には加齢とともに1年で1%ずつ、ほぼ直線的に低下します。しかし、高齢者でも、適切なトレーニングによって向上させることができます。
60~83歳を4つのグループに分けた実験では、3つのグループで最大酸素摂取量が増加しました。ここで興味深いのは運動強度によってトレーニング効果が異なることです。

(a)最大酸素摂取量の60%の強度で週2日未満のトレーニング
→増加なし
(b)最大酸素摂取量の60%の強度で週2日以上のトレーニング
→10%の増加
(c)最大酸素摂取量の80%の強度で週2日未満のトレーニング
→13%の増加
(d)最大酸素摂取量の80%の強度で週2日以上のトレーニング
→33%の増加

特に、(b)と(c)に注目してください。(c)は(b)よりもトレーニング日数が少ないにもかかわらず、(b)よりも増加率が高くなっています。最大酸素摂取量の向上はトレーニング日数よりもトレーニング強度がポイントであることがわかります。このことは、トレーニング回数を減らしても運動強度を落とさなければ、身体能力を維持できることを示唆しています。テーパリング期でのトレーニングに応用できます。

最大酸素摂取量80%のトレーニングとは、フルのレースペースでのペース走に相当します。このトレーニングを週2日以上行う(d)の内容でトレーニングをすれば、全身持久力を大幅に向上できるわけですが、加齢での体力ダウンと、回復の遅れを考えると、回復のための日数を確保でき、疲労をしっかり抜いた状態で80%強度の(c)のトレーニングを行った方が、無理なく確実にレベルアップできるわけですね。
中高年の場合、中途半端な負荷のトレーニングを週に2日以上行うのなら、週に1日でいいからしっかり追い込みなさい。ということです。これなら十分できますね。

更に鍛えられる(d)が魅力であることは確かで、トレーニング日数が2日以上になると、最大酸素摂取量は2倍以上に向上し、強度を60%から80%に上げることで、最大酸素摂取量は3倍以上に向上するわけですが、自分の年齢をわきまえず、無理なトレーニングをして慢性的な疲労をためこんでしまい、80%の強度でクリアしなければならないメニューが60%に落ちてしまえば、向上率は3分に1以下となり、結局、週に1日80%強度の方がマシになってしまいます。

目標の負荷でポイント練習をいかに成功させるかということが、中高年ランナーの場合は特に重要となってくるわけですね。回数よりもペース(強度)を重視し、強度をクリアでき回復もできたのであれば、次に量を増やすというやり方が効率的となります。
10~20kmほどのペース走なら、中高年ランナーでも週に2回くらいはできそうですが、ロング走など持久力を強化するポイント練習も必要なことを考えると、ペース走は週一程度にしないと疲労が抜け切らないかと思います。

『42.195KM トレーニング編』には、中高年ランナーのトレーニングのポイントとして、下記の項目が上げられています。

・トレーニングと休養のサイクルを考える(頻度を少なくする)
・スピードトレーニングの強度、頻度を考える
・月間走行距離にこだわらない(走り過ぎない)
・ウォーミングアップとクーリングダウンをていねいに
・柔軟な発想でトレーニングをする
・ストレッチ、マッサージなどのケアをしっかり
・体調不良、悪天候では無理して走らない
・自分の状況に合わせて、サンプルプログラムを上手に活用する
・過去のトレーニング方法にこだわらない
・腰や膝に負担のかかる補強運動はしない

高齢になると、タイムを目標にすると達成が困難になるため、月間走行距離を目標に置いてしまいがちですが、たくさん走るのは暇と元気があれば誰にでもできます。マラソンを知らない一般人からすると、たくさん走ったことはすごいことのように感じますが、マラソンを知っている人からすると、走行距離の価値観は低い。
月間走行距離を無駄に稼ぎたいのなら、平日はのんびり60分ジョグ9km(6'40/kmの楽チンペース)を朝と晩の2部練で行い、土曜はお休み。日曜は30kmのマッタリLSDかマラニック。これで月516kmほどになります。

距離を伸ばすのは時間さえあれば可能ですが、速く走るというのは非常に難しい。難しいからこそ、マラソンの評価基準はタイムになっているのですよね。
人それぞれ価値観が違うため、マラソンを続ける目的や目標もそれぞれ違いますが、どうせやるなら、難しいテーマを目標に置いてチャレンジしてみるほうが、やり甲斐も達成感も格段に上です。
加齢とともに自己ベスト更新は難しくなりますが、去年のベストタイムを上回るようにしてみる、年代別で上位をめざしてみる、去年出場した大会の順位を超えてみる、全日本マラソンランキングで順位を上げるなど、自分の年齢やレベルに見合った価値観の高い目標はいくらでも作れるはず。
そしてそのためのトレーニングは、難しくもあり、苦しくもあり、楽しくもあります。走行距離を追うだけで、何の実績も残らず評価も得られない、日課のようなランニングとは雲泥の差です。

来シーズンの大会のエントリーが続々と始まり、気合が入る時期ですが、猛暑日が多いため、なかなか思うようなトレーニングができません。体力の衰えを身にしみて感じている私のような中高年ランナーは特にそう。気合だけなんですよね。それだけに、トレーニング方法を見直して、効率化を図ることが重要のようです。
お互い頑張りましょう。