高橋尚子選手や、有森裕子選手を育てた小出義雄監督が監修を務めていて、「はじめに」の部分が小出監督の言葉なのですが、これを読むだけで俄然やる気が出ます。
この本は、初心者編、中級者編、上級者編、実践編と分かれていて、オールカラーで写真も多いです。写真は小出監督率いる佐倉アスリート倶楽部の女性ランナーの練習風景。ひたむきにトレーニングをしている彼女たちの写真を見るだけで、自分も早速トレーニングをしたくなってきます。
書かれている内容は実践的で有用なものばかりなので、すでに上級レベルの方も初心者編からじっくり読めます。私が読書メモをした箇所を挙げてみると、
初心者編
・靴紐の通し方はアンダーラップ
”靴ひもは、穴に上から通すオーバーラップと、逆に下から上に通すアンダーラップの2通りの結び方があり、長距離に適しているのは締めつけを感じさせないアンダーラップの方。”
・速歩の効果
”腰の回転を意識して歩くと、腰痛改善にも効果がある。腰痛の下にある仙骨と腸骨のつなぎ目を「仙腸関節」と呼ぶが、正しい姿勢で腰を回転しながら歩くと、仙腸関節のズレが矯正され、体のゆがみが取れる。”
”仙腸関節
仙腸関節とは、腰椎(腰の骨)の下にある仙骨とその外側にある腸骨(おしりの内側の骨)の接する関節。靭帯組織で強化されていて可動性が少ないが、画像検査ではほとんど分からない程度の3~5ミリのわずかな動きはある。ぎっくり腰の中で一番多いのが、この仙腸関節を痛めて炎症を起こしてしまうものだ。”
・練習日誌
”日誌の効果とは何か。それはズバリ記録し、見直し、反省ができること。~記録することで課題や目標が明確となり、継続へのモチベーションを保ちやすくなる。”
・日誌に記録する内容
走行距離、タイム、天気、体重や体脂肪、測れる人は起床時の心拍数や血圧、ダイエットをしている人は何を食べたか、感想や気づきなど。
レース当日は起床時間や、その日の行動をできるだけ詳しく書く。備忘録的な役割を持たせることで、次回以降の参考になる。
・下半身と上半身のストレッチ
※これは写真を参照しました。道路の縁石や標識のポール、ガードレールなど、身近にあるもので利用可能。
・自宅での補強トレーニング
※写真付きでいくつか紹介されていたのですが、脚を段差に乗せて行うヒップリフトを自分のトレーニングに加えることにしました。
中級者編(サブ4への道)
・心拍数
運動強度=心拍数÷最大心拍数×100 または、
運動強度=(心拍数ー安静時心拍数)×100
最大心拍数=220ー年齢
・インターバルトレーニング
”導入期は1000mをフルマラソンのペース(サブ3を目指す人は4分15秒、サブ4なら5分40秒)で走り、そのあと600mを3~4分のジョギングでつなぐ。試合期だと、1000mをフルマラソンのペースで走り、ジョグは200mを1分から1分半でつなぐ。これを5本から10本こなす。大事なのは、決めた本数をきちんと走り切ることだ。
つなぎのジョグも重要。ゆっくり長いジョギングで呼吸を整えてしまっては効果が薄い。むしろつなぎで追い込むのが理想だ。
ここで注意しなければいけないのは、初~中級者にとってインターバルは決して万能ではないということだ。サブ3、2時間台を目指す人たちにとってこそ効果的な練習法なのだ。
~フルマラソンでサブ4を目指す人たちにインターバルは特効薬にならない。”
サブ4を狙う中級者への効果的なトレーニング
1、20km走のとき、ラスト5kmを全力で走る
2、45分走なら、最後の15分は全力で走る
3、25分ジョグ→5分全力走→25分ジョグ
・坂道トレーニング
筋力と心肺機能が鍛えられ、故障が少ない。効率的なフォームを身につけることができる。
穴場は河川敷の土手。線路の上を越えていく陸橋なども格好の練習ポイント。
・クロスカントリーで体幹強化
”サッカーの長友佑都選手は、体幹を徹底的に強化して、外国人選手と接触しても負けない体になった。軸がぶれないということは、マラソンでも非常に重要なポイントとなる。”
・変化走の例
サブ4を目指す人なら、5分30秒と6分30秒くらいのペースを1kmごとに繰り返して走る。
20~30kmくらいまでの距離を、マラソン目標ペースで5km+ジョグを1km。これを繰り返す(ウエーブ走)
目標ペースでのランを5km→3km→2kmとし、その間にジョグを1km入れ、トータル12kmとする。
・股関節のストレッチ
※写真を参照しました。
上級者編(サブ3への道)
”サブ3とサブ4の違いは意識と質の違い。サブ3レベルになると、走る以外にもやらなければならないことが増えてくるし、ただ走るだけでなく、目的意識の植え付けも大事。意識を変えればつらいこともつらくなくなる。”
”「走っているのではなく、走らせてもらっているということをわかってほしい。いい靴を履いて高性能のウエアを着る。でもそれは環境を整え、道具を作ってくれる人があってのこと。そういったことに気を遣えるようになれば自然と練習への取り組み方が変わってくる」走ることができるのを当たり前と思って、道具の扱いや日々の練習をおろそかにしていないか。その心掛けを「腰を低く」改めるだけでも練習を、道具を無駄にしていないという気持ちがわいてくる。そうすれば日々の過ごし方も変わってくるはずだ。”
・朝練
佐倉アスリート倶楽部では、朝6時半ごろに集合し、10分後にスタート。12kmをキロ4分15~30秒のペースで走り、クールダウンを含めてトータルで14~15km走る。
朝練は朝食前の空腹での練習のため、レース30km以降の空腹対策にもなる。脂肪を燃やせるのでダイエットにもなる。
朝練をすることで2部錬が可能になる。
・流し(ウインドスプリント)とはなにか
小さくなった動きを大きくする、いわば走りの矯正。100mほどの距離を、スピードを出して駆け抜ける。これを2~3本繰り返す。
走る前にスキップを入れる。地面を垂直に押す。もっと言えば地球をけとばすつもりで。スキップでリズムを作り、そこからスーッと走りだす感覚。
・レース前の休養
”小出義雄代表は、レースがある週の金曜日は何もさせないで完全休養にする。その理由は「脚のバネをためるため」であり、その効果を理解しているから佐倉アスリート倶楽部で練習する選手たちも焦ることなく、ゆっくり休養する。”
【レース10週間計画】
■第1~4週 脚づくり
・目標は3時間のLSD
初日は60分ジョグでスタート。そして2日目からはいよいよ本番。まずは120分のLSD、さらに3時間のLSDを目標に徐々に時間を伸ばす。
LSDのペースはキロ6分~6分半。
・ペース走
4週まではイーブンペースで30km走、さらに40km走を行なっていく。大事なのは速く走ることではなく、長い距離を走れるように体を慣らすこと。脚と体が慣れてきたらキロ6分、5分とペースを上げていく。
・ほぐれたサイン
土曜日にポイント練習を入れて、日曜日に2~3時間のLSDを入れる。このとき、走り終わってから「脚がほぐれたな」と感じられるようになったら、サブ3は確実に近づいてきている。
■第5~8週 実践練習
”フルマラソンで3時間を切るために最も効果的なトレーニング法は何なのか。小出代表は、距離走の中にビルドアップを組み込むことが成功の鍵と説く。”
・ビルドアップの例
”週末のポイント練習で30km走をやるとする。このとき、途中の15~20kmをペースアップしてみる。あるいは最後の20、25kmからゴールまでをペースアップして走り切る。40km走ならレースペースよりもやや遅いペースで30kmまでを走り、残り10kmをレースペースで走る。”
”一般的にサブ3を目指すなら、30kmを1キロ5分くらいのペースで走り、ラスト5kmを4分20秒前後のレースペース、または全力で走る練習が役に立つ。”
・インターバル
”インターバルを軸にした練習では、距離を走り込めない。5000メートル、1万メートル、あるいはハーフマラソンぐらいまでならそれでもいいが、フルマラソンには向いていない。
~ではインターバルは必要ないのか。それも違う。特に働きながら走っている市民ランナーにとっては、使い方次第で有効な練習になる。”
・インターバルの例
(400m全力+400mジョグ)×25本=20km
(1000m全力+400mジョグ)×5本=7km
(400m全力+400mジョグ)×10本+1000m全力=9km
リカバリーのジョグは200mよりも400mとった方が効果的。200mだと10000mなどのトラック種目向けの練習になる。
・指標は心拍数
”小出義雄代表は「心臓も筋肉。追い込まないと意味が無い」と言う。”
”実業団などのトップクラスは、走っている時の心拍数を1分間あたり160~180まで上げ、つなぎのジョグで少し落とすというのが一つの目安となる。もちろん一般のランナーが180まで上げるのは無謀上級者はインターバルのペースを上げるのではなく、リカバリーのペースを上げる。あるいは、つなぎの距離を短くする。心肺機能をより追い込んだ状態で走ることで、さらに強化することができる。スピードを上げないで負荷だけ高めるので、故障のリスクも少ない。
~リカバリーでの呼吸だ。呼吸が整うのを待つのではなく、ある程度上がったままの状態で次のスタートを切る。”
・心拍数と運動強度
最大心拍数=220ー年齢
運動強度
軽い運動 最大心拍数の60~70%
ややきつい運動 最大心拍数の70~85%
激しい運動 最大心拍数の85%以上が目安
■第9~10週 総仕上げ
・マラソンの調整
レース10日くらいまでは強い練習を入れても大丈夫。10日ほど前に10kmのタイムトライアルを入れるとちょうどいい。
あとは基本的に強度の高い練習や距離を踏む練習を避けて、疲れを抜いておくこと。軽く心肺機能や脚に刺激を入れて、ジョグでつないで調子を維持する。
・脚は重めがちょうどいい
レースのスタート時は少し脚が重いくらいがちょうどいい。軽いとレース前半に飛ばしすぎて後半大失速となるパターンが多い。
このあと、実践編、アフターケアと続くのですが、参考になる部分が非常に多く、細かく書きだすとキリがないほどです。写真を参考にするページは、iPhoneで撮っていつでもどこでも見られるようにしておきました。
本書は監修が小出監督で、内容は佐倉アスリート倶楽部のコーチ陣。それを東京スポーツの方が文章にしたもののようです。そして中日スポーツと東京中日スポーツ誌上で連載し、そこから抜粋、加筆、再構成したものが本書とのこと。オールカラーで価格は1000円(税抜)とお値打ちです。
ちなみに、小出監督の「はじめに」の部分に高橋選手のことが書かれているのですが、
~単純な、子どもらしいきっかけで陸上を始めてあきらめないで努力して、僕も10年間1度も怒らず褒めてきて、そうやって夢をかなえたQちゃん。~と書かれていました。褒め伸ばしという教育方法ですね。怒鳴ったり体罰で指導する教育者に、1度も怒らず褒めて指導することの大変さと大切さ、そしてその指導がもたらした結果を学んで欲しいところです。