2013/04/04

読書メモ(アドバンスト・マラソントレーニング)

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アドバンスト・マラソントレーニング

2010年12月出版のこの本を読んでみました。マラソン初心者向けではなく、中・上級者向けの本で、サンプルとしてあげられているトレーニングメニューでは、月間走行距離が350~550km以上で解説されています。またトレーニングでは、LSDを重要視しておらず、練習計画にLSDは出てきません。この点は私も同意。
紹介されているトレーニングメニューでの距離は、マイルをkmに換算しているため、5kmや10kmなど切りの良い数値にはなっていないようです。
マラソンに関するすべての事柄が網羅されています。世界的に有名な選手を解説したコラムもあります。


外人さんの書籍にありがちな、文章の読みにくさや、訳の悪さなどは一切なく、非常に読みやすくわかりやすい内容となっていました。ストレッチや補強トレーニングに関しては、写真で解説されており、具体的なトレーニングメニューはレベルごとに、縦に曜日、横に週単位での表で説明されています。
有益な情報ばかりが載っており、内容に古さはなく、私が今まで読んできた多くのマラソンの本の中で、この本が最も詳しく参考になりました。

この本で私がメモをした一部を抜粋して書いてみます。ペースタイムや心拍数は、私の今のレベルに換算しています。(※をつけています)

■優れたマラソンランナーの生理学的条件とは

・遅筋線維の割合が高いこと(遺伝)
・乳酸性作業閾値(LT)が高いこと
・グリコーゲン貯蔵量が多く、脂肪の利用効率が高いこと
・ランニング経済性(ランニングエコノミー)に優れていること
・最大酸素摂取量(VO2max)が高いこと
・素早い回復

筋繊維の割合以外は、すべて適正なトレーニングによって改善できる


■LTペースを高める方法

LTペースを高める最も効果的な方法は、練習ペースを現在のLTペースか、またそれよりも1kmあたり1~2秒程度速いペースにし、持続的なランニング、あるいはロングインターバルを行うことである。(この本でのLTペースは、15kmからハーフマラソンの距離のレースペースにほぼ一致と説明されています)


■ロング走はスロージョギングになってはならない

最も効果的な強度は、レースペースから10~20%遅いペース。心拍数では最大心拍数の74~84%。ロング走の長さを徐々に延ばし34~35km程度に走るようにすれば、故障することなくレースを最高の状態で迎えられることが多い。


■発汗によるメカニズム

・血液量が減少する
・心臓に戻る血液が減少する
・1泊ごとに心臓から送り込まれる血液量が減少する
・活動筋に送り込まれる血液酸素濃度が低下する
・有酸素性エネルギーの産生が減少する
・ペースを遅らせざるを得なくなる
研究の結果、体重の2%を脱水で失うと、パフォーマンスは4~6%低下する。


■ポイント練習の間の回復日のランニング

マラソンランナーが最も犯しやすい間違いは、回復日にハードな練習を行なってしまうことである。また、回復日に無理やり距離を稼ごうとするのも、ありがちな間違いである。自制心が必要。
回復日の練習強度を抑えるには、ハートレートモニターを使う。


■回復力をモニターする

日誌をつける
体重、起床時心拍数、気温、湿度、睡眠時間と質、食事の質、水分補給量と尿の色、筋肉痛、活力レベル、標準ペース(※5:00)の心拍数など。


■トレーニングの種類(トレーニング期間は18週間もしくは12週間)

「ロング走」

距離 26~35km
ペース フルマラソンのペースの10~20%遅いペース(※4:35~5:00)
心拍数 最大心拍数の74~84% 最大心拍数=207-年齢×0.7(※128~146拍)
方法 最初の部分はフルの20%減のゆっくりペースから走り始め、残りの8~16kmを10%減のペースで走る


「ミディアムロング走」

距離 18~24km
ペース 上記のロング走と同じ(※4:35~5:00)


「マラソンペース走」

距離 ロングまたはミディアムロング走と同じ。
ペース フルマラソンのレースペース(※4:10)
心拍数 最大心拍数の79~84%
方法 25kmなら、6kmをゆっくりから徐々にペースを上げ、その後19kmをマラソンペースにする。


「有酸素走」

距離 16kmまで
ペース レースペースより15~25%遅い(※4:47~5:12)
心拍数 最大の70~81%(※122~141拍)


「LT走」

距離 15~21km
ペース ハーフマラソンのレースペース(※3:45~3:55)
心拍数 最大の82~91%(※142~158拍)
方法 3~5kmをウォーミングアップ、10~15分をクールダウン
例 16kmLT走の場合、アップ5km→LT走8km→ダウン3km


「回復走」

距離 6~10kmほど
心拍数 最大の76%未満(※132拍未満 ペースは5:00~5:30くらい)
方法 できれば柔らかい走路を走る


「VO2maxインターバル」

距離 1本600~1600m レストは疾走タイムの50~90%
ペース 5kmのベストタイムのペース(※3:44)
心拍数 最大の93~95%(※162~165拍)
方法 1000mの場合、1000mを指定ペースで(ペースを上げないこと)走る。
レストタイム(※1:50~3:20ほど)ジョグ。
再び1000mを疾走。これを6~10本繰り返す。


「スピード走(ウインドスプリントのこと)」

距離 50~150m
方法 100mの場合、70mまでトップスピードで加速。30mを流す。レストは100~200mをジョグかウォーキング。これを繰り返す(10本くらい)
良いランニングフォームを維持し、毎回の走りで力強い加速に集中すること。


■2部練習は行わない(2部錬=朝と夜など1日2回の練習)

短い距離のレースのランナーには必要だが、マラソンランナーは1回の練習で走る距離を最大限に延ばすまでは、2部練習は行わない。2部練習が必要なのは、練習での週間走行距離が121kmを超えてから。


■坂道の走法

上り坂は前かがみにならないこと。視線を下げず、前方を見る。ストライドを小さくして、ひざを自然に引き上げる。腕や肩はリラックスさせる。
下り坂は、坂道の傾斜に対して垂直に保つ。重力を使ってできるだけ速く走り下りる。


■VO2max練習では追い込み過ぎないこと

マラソンランナーがトレーニングで間違いがちなのは、インターバルトレーニングのペースが速すぎることと、その頻度が高すぎること。
マラソンではLTペースより若干遅いペースで走る。マラソンレース後に乳酸度を測定しても、安静時の値よりわずかに高いだけである。したがって、マラソンランナーにとっては、1500mレースペース以上のインターバルのような乳酸を高めるトレーニングは行う意味が無い。
マラソンランナーにとって、VO2max練習は二の次と考えてほしい。


■クーリングダウンの目的

・乳酸除去の向上
・アドレナリン濃度の低下
・筋硬直の軽減


■練習後の栄養補給

栄養補給は練習後の1時間が勝負である。この時間を過ぎると、摂取したものを吸収してグリコーゲンを合成する身体の能力は66%も減少し、翌日は活力が低下してしまう恐れがある。
したがって、この大事な時間に300~400kcalをとることを目指してもらいたい。この時間は身体が単糖類(果物、スポーツドリンク、エナジーバーなど)からグリコーゲンを合成する能力が一番高い時間である。さらに少量のタンパク質をとれば、グリコーゲン補充がすみやかに進むことが研究によってわかっている。


■レース前のテーパリング(調整)方法

・レース3週間前から始める
・トレーニング強度は維持する
・トレーニングの距離は減らす
・回復日の練習は軽くするか、完全休養とする
・適切な食事と水分補給を行い、できるだけ回復を図る
・筋肉に張りがあれば、ストレッチ、理学療法、マッサージ、休養によって取り除く

距離の減らし方
・レース3週間前:走行距離をピーク時より20~25%減らす
・レース2週間前:走行距離を40%減らす
・レース1週間前:走行距離を60%減らす


■カフェインについて

カフェイン摂取による軽度の利尿作用が見られる人もいるが、日常的にカフェインを摂取している人は、水分摂取に何の影響も与えないとされている。カフェインをいつも飲んでいる人は、適量のカフェインであれば、同程度の水を飲むより尿量が増えるということはない。毎朝コーヒーを飲む習慣がある人が飲むのを控えると、カフェイン禁断症状が表れ、パフォーマンスに悪影響が出る可能性もある。
カフェイン摂取によって期待できる運動能力向上効果は、運動負荷試験の結果から1~2%程度(10kmでは20~50秒、マラソンでは90秒~4分)であると推定される。しかしレースとなると、カフェインは試験と同様に作用されないと思われる。カフェイン効果の1つであるアドレナリン濃度上昇が、競争の興奮による刺激からも引き起こされ、カフェイン効果がレース中に減弱する可能性があるためである。
マラソン選手のパフォーマンスを向上させるカフェイン効果としては、グリコーゲンの節約、筋繊維内に存在するカルシウムの放出増加、中枢神経系の刺激が考えられる。カフェインを摂取すると脂肪酸が動員されるため、脂肪がより多く使われ、グリコーゲンが節約できるようになる。
グリコーゲン枯渇が原因で35kmの壁に苦しんでいたランナーも、カフェインを摂取することでグリコーゲンをフィニッシュラインまで持たせることが、理論上は可能である。


他にも栄養面やメンタル面、レースでの戦略、走り方、など、いろいろ解説されており、学ぶべき部分が多い内容となっていました。ランニングを趣味の一環として、ストレス発散や健康維持を目的に走るだけでなく、レースで好結果を残したいとか、満足の行く生涯記録を作りたい、どこまで自分のレベルが上がるかチャレンジしてみたい、年代別で上位に入りたい、といった競争心や向上心が強いランナーには、とても参考になる1冊かと思います。


アドバンスト・マラソントレーニング