すでにマラソンの経験のある中上級者向けの本で、初心者の方は前著の本が向いています。
今回の本は、サブ4またはサブ3を目指すランナーに向けた本で、内容は前半がサブ4を目標としたトレーニング内容を、後半はサブ3を目標としたトレーニング内容、そして最後に、小出監督がコーチをした市民ランナーの体験記が載っています。すでにサブ3を達成している方も、十分参考になる内容です。
タイトルの通り、後半にペースが上がるためのトレーニング内容となってはいますが、トレーニングの種類は他の教本と同じで、
・ジョギング
・ビルドアップ
・インターバル
・坂道インターバル
・タイムトライアル
・LSD
・ペース走
トレーニング期間は目標のレースまでの3ヶ月間とし、メニューの基本ルール(サブ3の場合)は
1、1週間に3日、脚や心肺に負荷をかける練習日を作る。残り4日のうち3日はジョギング、1日は休み。
2、平日でも、場合によっては練習時間が2時間くらいかかる日がある。
3、土日はともにポイント練習日。うち1日は長い距離を走る。
4、3ヵ月のうち、最初の10週を通常練習、最後の3週を調整練習の期間とする。
5、通常練習の10週間は2週ごとに強度を強め、逆に調整練習の3週間は1週ごとに強度を弱める。
サブ3でペースを後半型にするためには、
20~30kmの距離であれば1km4分~4分05秒のペースで走れるようになることを目指しています。
とのことで、これが最終的な課題となります。
本番のレースでは、スタートしてからしばらくは基準タイムの4分15秒よりもゆっくりしたペースで走って力を蓄え、中盤から徐々にスピードを上げていき、そして終盤を4分~4分05秒のペースで走る。これがサブ3を達成する後半型の走りのイメージです。
その日のトレーニングメニューは細かく本書で指示されていて、そのメニューをこなすためのポイントが書かれています。
心肺を鍛えることを重要視していて、インターバルやタイムトライアルなど、追い込み系のハードなメニューが組み込まれていました。
最もハードな週のメニューは、
月 休み
火 ジョギング60分
水 ペース走20km 1キロ4分~4分05秒ペース
木 ジョギング60分
金 ジョギング60分
土 インターバル走 全力1km+ジョギング200m 3~5本
日 ビルドアップ走 35km スタートゆっくり、完走すること!
水、土、日は事前にジョギング15~20分
となっています。他に、LSDも出てくるのですが、別の教本だと、キロ8分ペースという異常に遅いペースのLSDを紹介しています。このペースは、足踏みしながら走っているかのような状態で、心肺機能も脚力も強化できず、フォームは小さくなり乱れ、遅いペースで長時間ノロノロ走るため、精神的にも非常に苦痛です。この苦痛の鍛錬のための練習かと思ってしまうほどです。こんなLSDをするなら、日帰り登山やハイキングをして、1日中野山を歩きまわっているほうがはるかに効果的です。LSDなど不要、ジョグやロング走、そしてハイキングや登山でOKと私は思っていたのですが、小出監督のLSDは全然違います。2時間30分で30~32kmを走るというもの。ペースはキロ4分42秒~5分になります。速いです。
実際に、このメニューを今日試してみたのですが、しっかりしたフォームで走れるスピードなので、無駄のないフォームのチェックや、足にやさしい着地のチェックができるし、ある程度の心拍数になるため(私の場合は平均136拍/分になりました)、有酸素運動の効果も高く、非常に有意義なトレーニングとなりました。このLSDなら納得です。
それと、レースをトレーニングの一環とし、非常に多くのレースに出場している公務員ランナーの川内優輝選手がいますが、小出監督は川内選手のやり方に大賛成しているそうで、2週連続フルマラソンに出る場合のメニューまで紹介されていました。
本文中には、そのトレーニングをするための理由や、高橋尚子選手や有森裕子選手の話、トレーニングメニュー以外の効果的な内容など、盛りだくさんの内容となっています。
最後は、モニターに選ばれた市民ランナーに対して、小出監督が練習メニューを作り、助言をしながら目標に向かってトレーニングをする企画があり、そのランナーさんの体験記が載っています。
普通なら、小出監督のおかげで、目標を達成した体験記が続々と書かれているというパターンになりそうですが、目標を達成した人だけでなく、達成しなかった人の完走記も載っています。
こういう話はクリアできなかった人の話のほうが参考になるんです。自己ベストを目指して一生懸命練習したのに、何かに失敗して達成できなかった。一体何がいけなかったのか?何が足りなかったのか?そうしたサブ4、サブ3を達成しようとした先輩たちの苦しみをみておくことは、きっとみなさんの役に立つはずです。
さすが小出監督!ですね。
今までのマラソン関係の本はたくさん読んできましたが、この本がNo.1です。ちなみに、小出監督率いる佐倉アスリートクラブのランナーの写真がたくさん載った、この本も抜群に良かったです。
次に、この本も最近出版された新書で、マラソンの走力アップを目指した内容となっています。
この本はオススメできないのですが、
月間走行距離が200kmを超えると、スポーツ障害の発症率がぐんと上がるといわれています。また1回10km以上、あるいは1回50分以上のトレーニングを週5日以上行うと、スポーツ障害の発症率が上がるという研究結果もあります。
なんだそうです。研究結果の出どころは示されていませんでした。そのため、この著者のトレーニングメニューは、非常に低負荷のものとなっており、
1、月間走行距離は100km台
2、基本的にペース走だけ
3、糖質の体内貯蔵量を増やす
4、脂質を代謝しやすい体質づくり
ちょっとビックリする内容なんですが、ここに出てくるペース走はLTペースのことなんだそうで、フルマラソンのレースペースだそうです。
仮にマラソンペースで練習したところで、レースのコースは高低差があったり、向かい風が強かったりなど、高負荷な場合があるので、平均的なペースで走り続けるだけの走力ではこの負荷に耐えらず、ペースダウンしてしまいます。
また、10km地点と、30km地点では、同じレースペースでも負荷が全然違います。それは心拍数を測ればわかります。つまり、レースペースよりも速いペースでも走れる余力がないことには、基準のペースを維持することはできないはずなんですよね。
また、故障に関してですが、ランナーさんで故障を経験したことがない人なんていないかと思います。当然私も故障は何度も経験しています。走力が上がれば、今まで経験のなかった負荷が脚にかかるため、故障をして当然です。別にハードなトレーニングを行っていなくても、前より頑張れば故障の確率は高くなります。
しかし、その故障のおかげで、何で故障したのかを考えるようになるし、故障にならないための対策もするようになります。故障中でも、休むより軽く走ったほうが治りが早い場合もあるし、故障箇所をいたわることで、他の部分が強化する場合もあります。さらに、故障を繰り返すと治癒力が増し、治りが早くなることもあります。
そういった体験は、自らが故障をして経験するしか方法はなく、マラソン生命を断つような故障は別ですが、数週間や1~2ヶ月で治るレベルの痛みや故障なら、問題視するほどのことでもありません。故障は些細なものでも嫌だからとトレーニング負荷を減らしてしまったら、レベルアップは難しいかと思います。
この著者のトレーニングメニューの、最も高負荷のステップ4の週間メニューをピックアップしてみますと、
月 OFF
火 ペース走(10km)+練習直後の糖質摂取
水 OFF
木 ペース走(10km)+練習直後の糖質摂取
金 OFF
土 LSD(20km)+練習直後の糖質摂取
日 OFF
糖質摂取というのは、
練習が終わってから30分以内に、ご飯やパンや麺類といった主食から糖質を多めに補給するのが理想。最低でも1時間半以内にとりましょう。
練習直後にとれないときは、糖質が多いゼリー食品やバナナなどの果物で糖質を摂取します。果物は水分が多く糖質の含有量が少ないので、バナナなら1本ではなく2本食べるようにします。
たった10kmの消費カロリーで、いちいち糖分補給を多めにしていたら太りそうな気がするのですが。
そして1日おきに休みで、LSDのペースはペース走の30秒増しのペースだそうです。
この本の謎なところは、このトレーニングメニューは具体的にどんなレベルの人を対象にしているのかがわからない。そして、トレーニングでの目標タイムはいくつなのかも書かれていません。また、このメニューをこなしてレベルが上がったとか、目標を達成できたといった実績も書かれていません。著者の思いつきから生まれ、それを正当化するための適当な理由を付けただけのようなメニューにさえ感じました。
本の「はじめに」の部分に、
私がこの本で紹介するのは、中・上級者の市民ランナーであっても、月間走行距離100km台で自己ベストを更新するメソッドです。
と書かれているので、当然サブ3ランナーも対象に入るようです。上級者がこんな甘っちょろいメニューでレベルが上がるわけねーだろ!と思わずつぶやいてしまうわけですが、この著者、中野ジェームズ修一氏のもっと残念なところがありまして、この中野氏はサブ3にチャレンジしたそうで、その体験談がコラムとしてP45、P92に書かれています。
3時間13分が自己ベストだそうで、サブ3に挑んだのですが、その時の練習が、キロ4分10秒ペースでの練習をし、月間走行距離は多い月で300kmほど。平日は1回10km、週末は30km走を行ったそうです。そしてレースに出たところ、3時間23分という結果に。
今考えると完全なオーバートレーニングだったと書かれているのですが、別に故障をしたわけでもなければ、異常に多く走っているわけでもありませんよね。サブ3を目指すのであれば、多いわけでもないし、量だけでなく工夫も足りないような練習内容です。
そして、
サブスリーを狙うという目標は捨てたわけではありませんが、私自身の個別性を加味したうえで、とりあえず次のレースでは3時間9分が切れたらいいなと思っています。
段階的にタイムを上げて、いつかサブスリーになれたらとてもハッピーですが、たとえ3時間9分が生涯の自己ベストになったとしても、それは素直に受け入れるつもりです。体格や体質、運動習慣などによって走力には自ずと限界があり、3時間、3時間15分、3時間半といったきりのいい数字で都合よく自己ベストが出ないものだからです。
つまり、走力には限界があるから、目標を達成できなくても、開き直ればまあいいじゃん。みたいな結果に。
走力に限界があるから、今のタイムなんであって、目標に向かってトレーニングで自分の限界値を徐々に上げていき、目標をクリアして達成感の喜びを感じるのがマラソンの醍醐味ですよね。マラソンだけでなく、スポーツ全てにおいて同じことが言えます。自分の限界をいかに超えるか、超えたら新たな壁が立ちはだかり、それを次々と攻略していく。
「やったー!バンザイ!」という喜びと感動は、限界が高くなればなるほど増していきます。また、アスリートレベルではない市民ランナーの場合は、ライバルは他人ではなく過去の自分です。運動能力は年齢とともに下降するので、過去の自分は年をとればとるほど手強いです。でも、勝った時の喜びは大きい。
世界チャンピオンを目指す領域となれば、凡人には無理な話ですが、市民ランナーがサブ3を達成するレベルであれば、努力次第で十分可能で、現に私のようなヘタレでもクリアできました。
もし、私も中野氏のようなスポーツマンらしからぬ考え方であれば、サブ3などいとも簡単に諦めていたかもしれません。マラソンという趣味もやめてしまったかもしれません。
今回、対称的な2冊の本を読んで思ったことですが、陸上部や実業団、クラブなどに入ると、専属のコーチがいます。メンバーはコーチの指示通りのトレーニングを行います、それが間違っていても、自分に合っていなくても、従わざるを得ません。コーチのおかげで、記録が伸びなかったり、故障ばかりしてしまったりし、これといった結果が残せず、マラソンというスポーツから離れてしまう人もいるかもしれません。
しかし、大半の市民ランナーは、専属のコーチなんていません。だから、書籍や専門雑誌などがコーチとなります。本の中のコーチの選択権はこちらにあります。自分に見合ったコーチ、実力や実績のあるコーチ、トレーニングに対する根拠やデータが揃っているコーチなど、多くの優秀なコーチから、自分が選別して、お気に入りのコーチの元でトレーニングをすることができます。その選択のスキルを磨くには、多くの本を読むしかありません。
初めて買った1冊の本が、中野ジェームズ修一氏の「マラソンは最小限の練習で速くなる!」だとしたら、この本に従い忠実にトレーニングをしても、効果が出るかは疑問です。しかし、多くの本を読んでおけば知識が増すので、良書に巡りあうことができ、つまずくことなく、遠回りすることなく、挫折することなく、ステップアップできるかと思います。
自分の専属の優秀なコーチを見つけて、レベルアップしたいですね。