マラソンのトレーニングのための本は山ほど出ているのですが、新たに出版されたこの本は、トレーニング本ではなく、日本のマラソン界に名を残した著名な選手や指導者12名の提言を記した本で、
・選手時代のヒストリーやエピソード
・レースやトレーニングに対する考え方
・今の実業団や、東京五輪を目指す若い選手へ向けたメッセージ
などを、インタビュー形式も交えながら書かれており、非常に中身の濃いものでした。
面白いのは、大記録を打ち立てたときの、過去3か月分のトレーニングメニューを、表にして詳細に掲載されている点。
その日のメニューや走った距離、ペース、補強などのサブメニューが、朝練、本練に分けてビッシリ書かれています。
山下佐知子さんの場合は、教え子である尾崎好美選手のトレーニングメニューが掲載されています。
エリートランナーのメニューを見たところで、レベルの差がすごいため、自分のトレーニングにそのまま取り入れることは不可能ですが、
・どういったメニューを中心にこなしていたのか
・ポイント練習の割合や質は?
・補強運動の種類
・レース週の調整方法
・インターバル走の距離と本数
・そのメニューの練習場所はトラックなのか、ロードなのか、不整地なのか
といった内容などは、一般の市民ランナーレベルでも、非常に参考になります。
意外だったのは、ウォーキングをたくさんこなしている選手もいた点。ウォーキングをメニューの一つとして位置付けています。
また、クロカンや山登りなど、起伏や不整地でのトレーニングも結構多いようです。
トレーニング内容は、表だけでなく文章中にも書かれており、トレーニングに対する意識付けや意気込みなどが書かれているため、とても勉強になりました。
白黒ですが、写真も多く挿入されており、当時の様子が画像と共に詳しくわかります。
この本の最大の目的は、低迷している日本マラソン界に活を入れることと、東京五輪を目指すランナーへの応援メッセージとしての意味合いが強いようで、"はじめに"を引用すると、
マラソンとどう向き合い、どんな練習をしてきたのか。さらには、マラソンを志す後輩たちへ伝えたいことは何か。今の時代にそのまま当てはめることはできないにしても、2020年につなげるための知恵とヒントはいっぱい詰まっているはずだ。
"あとがき"には、
繰り返して読むうちに、自分の胸に響く言葉のいくつかが見つかるだろう。結果を出した人が紡ぎ出す言葉の一つひとつは、実に重くて説得力がある。多くの人に、何度もページを綴っていただきたい。
と書かれており、東京五輪を目指すエリートランナーはもちろんのこと、私たち市民ランナーのモチベーションアップにも大いに役立つ内容であり、特に、指導者を持たず、自分なりに工夫をしてコツコツ頑張っている市民ランナーこそ、参考になる内容かと感じました。
ポイントとなる点をピックアップしていくつか書き出してみたいのですが、あまりにも多くて頭の中が整理できていません。
宗兄弟や瀬古さんの話は、過去に出版された書籍などで知っていたのですが、この中では一番若い藤田敦史氏の考え方は、この本で始めて知りました。
それと、高橋尚子さんの伝記やエピソードはやはり圧巻。
小出監督のページの中にあった、小出監督の言葉には、
「マラソンは奥が深い。やればやるほど深い。死ぬまで勉強だと思っている。私なんか、まだまだ素人だ。」
とのこと。
この「マラソン哲学」という本、我々市民ランナーには、バイブル的な本になるかと思います。全352ページ。巻末にはマラソン記録の変遷や、歴代記録などの資料が載っています。
是非一読を。