2014/12/12

マラソンは10kmをゆっくり走り、トレーニングでは10kmを鍛える?

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スプリットタイムからみた市民マラソンレースの一考察
https://www.t-kougei.ac.jp/research/pdf/vol1-27-09.pdf
(PDFファイル 1.44MB)


というタイトルの論文を見つけました。

荒川市民マラソン大会でのランナーの10km毎のスプリットタイムのデータを取り、その変化を分析したもので、グラフでわかりやすく記されています。
男女とも、タイムが遅いランナーほど後半は失速しており、タイムが速い上位ランナーはイーブンペースで走っていることがよくわかります。

”この結果から,記録上位のランナーほど(スプリットタイムの)低下率が低く,イーブンペースで走っていることがわかる。したがって,市民ランナーがマラソンで好記録を期待するならば,できるだけ後半のペースが落ちないようにイーブンペースで走るのが望ましいと言える。”

とのことだそうです。上位ランナーは、長い距離を走り続けるための持久力が優れているから後半になっても失速しないのですが、それだけでなく、自分の予想したゴールタイムから算出した平均ペースで最初から走っているわけですね。下位のランナーは、自分の実力に対してオーバーペースで前半を走ってしまうので、当然後半は失速します。

”一定ペース型が記録の出やすい理想的なレース展開とするならば,記録下位のランナーほどスプリットタイム上オーバーペースである。記録下位のランナーがゴール記録を改善しようとする場合,スプリットタイムからレース戦術を検討する必要があろう。”

前半にオーバーペースにならないためには、達成できるかどうかわからない自分の目標ではなく、今の自分の実力(自己ベスト)を基準にペース配分をするくらいでないと、イーブンペースで走り切るのは難しいかと思います。
また、一定のペースで走ると、最初は楽に感じ、後半になればなるほど苦しくなります。これは心拍計を付けて走るとわかるのですが、同じペースタイムで走っていても、距離が伸びるにつれ、心拍数は徐々に上がっていきます。

”マラソンのような長時間・長距離をスプリットタイム上平均的に走っていても,ランニング効率は低下することが推測できる。つまりスプリットタイムからみたイーブンペースは,「物理(時間)的」に一定であるものの「生理学的」には後半型と考えられる。「生理学的」にイーブンペースとは,「物理的」には前半型となる。”

同じペースで走っていても、距離が進むにつれ疲労が蓄積し、心拍数は右肩上がりになるので、後半の方がキツく苦しくなります。そのため、マラソン大会での上級ランナーは、タイム上ではイーブンペースで走ってはいますが、肉体的には後半になるほどかなりの負荷がかかっている、「生理学的には後半型」というタイプになるわけですね。

”ゴール記録全体をみると,スプリットタイムから記録上位のランナーはイーブンペース型,ゴール記録が低下するに従い前半型のパターンを示していた。さらに,スタートから10km のスプリットタイムは,ゴール記録に比例していた。多くのランナーは42km を走るためには,余裕を持って前半を走ろうと考える。10km のスプリットタイムがゴール記録に反映されるなら,マラソンのゴール記録を短縮するために10km(10,000m)の走力を向上させる必要があろう。”

とあるのですが、これは疑問。
当然、ゴールタイムのレベルが違えば、最初の10kmのタイムは違うわけで、10kmの走力を向上させたところで、持久力が乏しく後半に失速してしまえば意味はなく、著者の言っていることが理解できないのと、

”レース後半では,筋疲労や精神面での疲労等様々な要因が重なりペースダウンすることが考えられる。走るためのエネルギーという視点からすれば,スタートから10km のペースを抑えて走ることで,中盤から後半にかけてのペースダウンを抑えることができると予想できる。レース後半に著しくペースダウンしてしまうランナーほど,10km のスピリットタイムを抑えて走る試みが必要であろう。”

今回は10km毎のデータをとったからそういった結論が出るものの、最初の10kmという区間に限定して抑えるべきかは疑問ですよね。
私の経験上、8~12kmほど走ると呼吸が安定し、体が汗ばんできて走ることに馴染み出し、身体がフッと軽く感じるようになるので、ペースアップしないように意識的に抑える部分は、身体が馴染んで余力が有り余っている10~20kmあたりかと思います。
それに、10kmまではスタート時の混雑があったり、それを挽回するためややペースを上げたり、周りのペースに惑わされたりするので、最初の10kmはペースは気にせず惰性で進む感じ。また、走り出しのため心拍数が一気に上がりやすく、ペースは遅くても「生理学的」には苦しく感じるので、最初の時点で意識的に抑えて走ると実際のペースはかなり遅くなったりしてしまうのですよね。

というわけで、一部疑問に感じる部分もあったのですが、この論文のデータを見る限り、上位陣はほぼ一定のペースで走って好成績を上げています。しかし、一定のペースと言っても、生理学的な苦しさからすると一定ではなく後半型。この後半の苦しさを抑えるには、前半はより一層ペースを落として走らないと持ちません。
以前書いたように、レースに向けてしっかりトレーニングをしていたとしても、前半は最速でも自己ベストの平均ペースに抑えるべきかと思います。
自己ベストを出した時は、後半失速している場合がほとんどなので、自己ベストの平均ペースは、自己ベストを出したときの前半のペースよりも落ちるかと思います。そのため、かなり楽に感じるはず。
私のように、後半失速型のランナーは、このくらいのペースで前半を走ったほうが、結果的には好タイムが出るような気がします。
イーブンペースでゴールまで走り切る方が、確実に速いというデータは出ているので、そのデータを信用し、安心して前半を走り切るようにすると、生理学的だけでなく精神的な余裕も生まれるので、後半に余力をすべて使い切ることで、予想以上の好結果が望めるのかもしれませんね。