2014/12/09

オススメのマラソン本

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東大卒で実業団には所属せず、川内優輝選手と同じ市民ランナーとして活躍している松本翔選手。
専属コーチは付けずに、我々一般の市民ランナーと同じようにコツコツとトレーニングを行い、大会で成果を上げているランナーの一人ですが、その松本選手が本を出版されました。

マラソンの本は、長期的なトレーニング方法とその解説、レース参戦、栄養や補強、故障や注意点などを説明した教科書のようなタイプと、著者の経験や知識、考え方や方法論を網羅した新書版のタイプがあり、松本氏の本は後者にあたります。
そのため、マラソン初心者よりも、ひと通りのトレーニングの経験があり、すでに何度かレースに参戦したことがある、自己ベスト更新を目指したランナーさんが読むと、かなり役に立つ内容となっています。
私はマラソン関係の本はたくさん読んだのですが、この本は小出監督の本と同様に、かなりオススメの一冊です。

目次

第1章 東大生ランナーが福岡国際マラソンを快走

名門、小林高校で長距離ランナーとして頭角を現す
学連選抜に選ばれて21年ぶりに東大生として箱根駅伝出場
不完全燃焼で終わりたくないと実業団入りを決意
初マラソンで2時間26分4秒
故郷のレースで自己ベスト
東大生ランナー対談1 ランニングと勉強は相似形

第2章 カラダと対話しながら自分の頭で考える

見本を参考に自分の頭で考えてアレンジ
自分のカラダと対話を繰り返す
練習に柔軟性(幅)を持たせる
モチベーションを高く保つ
練習で100%、120%を目指さない
フィジカル以上にメンタルが結果に影響
補強トレーニングをどう考えるか
東大生ランナー対談2 「やらされている」を「やっている」に変える

第3章 マラソンはシンプルな練習で速くなる

スピード練習と距離走の組み合わせが基本
インターバル走かペース走でスピードをつける
週末の長距離走は仲間と一緒に
距離走は終盤ペースアップ
長い距離を踏む重要性を軽視しない
5000mからレースペースを逆算する
ジョグの目的は疲労を回復させること
中・上級者にLSDはいらない
LSDでランニングエコノミーが低下
フォームは変えるものではなく変わるもの
ケアポールで姿勢をリセット
いい走りをするとお腹が張ってくる
シューズをどう使い分けるか
1000kmを目安にシューズを新調
東大生ランナー対談3 35kmの壁の謎は果たして解けるのか?

第4章 結果を出す東大式コンディショニング

3週間前からレース仕様の練習にスイッチ
2週間前はハーフマラソンとインターバル走
1週間前は10~15km走で体感チェック
カーボローディングで糖質蓄積量を増やす
距離走で食事法もシミュレート
レース前日に食べ過ぎない
東大生ランナー対談4 ファルトレクと芝生走で故障を予防
第5章 結果を出す東大式レースマネージメント
レース当日の食事をどうするか
スタート前のウォーミングアップ
スタート前に静的ストレッチはしない
ペースメーカーにゴールまで運んでもらう
いかに脳を使わずに走るか
前半貯金か、イーブンペースか
”集団の力”を借りて自己ベスト更新
30kmまでは集団に運んでもらう
余計なものは持たずに走る
失敗レースは次に活かす
東大生ランナー対談5 日本人ランナーに必要なこと

おわりに
いつか川内選手を超えたい


という内容になっているのですが、どの項目も内容が良くて、マーキングするところばかりでした。
コラムとして東大生の秋山太陽さん(2013年福岡国際マラソンで2時間23分40秒、28位)との対談があるのですが、この内容もとてもいいです。

自分の考え方や方法論だけでなく、実践的なトレーニング内容も書かれているのですが、読者向けだけではなく、実際に自分の行っているトレーニングも書かれています。そして、使っているシューズもすべて書かれています。
第1章は自分の生い立ち、第2章からマラソンメソッドに入ります。ポイントとなる箇所をピックアップしてみると、
マラソンの練習法に唯一の正解はありません。自分の頭で考えて仮説と検証を繰り返しながら、自分にあった練習法を模索し続けるのです。それ自体がランナーとしての成長を促してくれますし、ひいては仕事や人生全般においても大いに役に立ってくると思います。

距離走やインターバル走といった「ポイント(強化)練習」だけでなく、ジョグのような「つなぎ練習」でも、距離やペースを至上命題のように捉えないことが大切。つねにカラダと対話し、練習内容を柔軟に調整するべきです。

月間走行距離にこだわらず、ポイント(強化)練習を7割くらいの力でこなせて「よっしゃ、できた!」と思えるくらいの心のゆとりが必要なのです。

ポイント練習は週2回です。
1回は平日のインターバル走かペース走。インターバル走は1000m×7本、または400m×15本を基本にしています。ペース走は8000m前後+動き作りとしての1000mが基本となります。
もう1回は週末に20~30kmと長い距離を走るか、シーズン中であれば練習代わりにさまざまな距離のレースを入れます。
その他はジョグでつなぐだけです。

(インターバル走の)1000mのペースは3分/kmを切るくらい、400mでは70秒(2分55秒/kmペース)、つなぎジョグは200mを50~55秒くらいで回します。

サブ4のイーブンペースは5分40秒/kmですから、週末の距離走の設定ペースは6分/km。5分/kmペースのサブ3.5の距離走設定ペースは5分15~20秒。4分15秒/kmペースのサブ3の設定ペースは4分30秒が目安です。

「練習は裏切らない」のですが、それを「月に何km走ったか」という月間走行距離だけで語るのはナンセンスです。当たり前ですが、月間走行距離は結果であり、どんな練習で何km走ったかという中身が問われるからです。
行き過ぎた距離信仰には批判の声が上がっていますが、その多くは中身を無視して練習量のみをクローズアップする傾向に対して向けられたもの。マラソンは長い距離を走るスポーツですから、長い距離を踏む練習は不可欠です。
月間走行距離が同じ300kmでも、10kmを毎日走った300kmと毎週末に30kmを入れた300kmでは走力向上の効果が大きく異なります。

5000m、10000m、ハーフマラソン、フルマラソンには面白い関係があります。10000mは5000mの2倍の距離ですが、1kmあたりのペースは6秒落ちます。ハーフマラソンは10000mの距離の2倍強ですが、やはりペースは1kmあたり6~7秒落ちます。そしてマラソンはハーフマラソンより1kmあたり8~9秒落ちます。
(中略)
この法則に従うと68ページで紹介した通り、1000m×7本のインターバル走はサブ4狙いなら5分20秒/km、サブ3.5狙いなら4分40秒/km、サブ3狙いなら3分55秒/kmとなるのです。400mをやる場合には、それぞれ2秒(5秒/km)ほど上げるわけです。

ポイント練習以外のつなぎ練習はジョグのみ。私は4分30秒~5分/kmくらいのペースで走っていますが、サブ4を狙うランナーなら6分30秒/km、サブ3.5を狙うなら6分/km、サブ3を狙うなら5分30秒/kmくらいの速すぎず遅すぎずのペースが目安になると思います。


松本氏、秋山氏の対談コラム抜粋

松本:早大同も理科大の陸上部も専属のコーチはいないんだよね。東大と同じで。
秋山:学生同士で考えながら練習をしている感じですね。大学時代のポイント練習は週2回。12000mのペース走と400m×15本か600m×10本のインターバル走です。週1回休養、その他はすべて90分くらいのジョグですね。

秋山:練習には3本の柱があります。ひとつは「最大酸素摂取量」を上げる練習。400m×20本とか1000m×10本のインターバル走ですね。
(中略)
それから「LT」を上げる練習が8000mから16000mのペース走です。設定ペースは3分10~15秒/kmで教科書通り。
(中略)
そして最後の柱は20~30kmの距離走。12kmまでは3分40~50秒/kmで、ラスト8kmは体調をみながらビルドアップ。最後は本気の一歩手前くらいまで追い込んで終わるイメージでやっています。距離走のときは自分で距離をしっかりコントロールする気持ちで取り組んでいます。

秋山:質を保ちながら量で調整をする。市民ランナーは距離で帳尻を合わせて内容に目をつぶることが結構多いですけど、逆ですよね。
(中略)
松本:「なにがなんでもサブ3!」と決意するのもいいけど、今年がダメでも来年があるというふうに切り替えていけば精神的な負担は減らせる。いつ達成したかは、あとで考えると小さな話だし。
(中略)
松本:市民ランナーは逆算で作った練習を必死にこなそうとするけど、それだと練習のための練習になりがちなんだよね。


こんな感じでまだまだ続くのですが、全部引用してしまうと本を買わなくても済んでしまいそうなので、とりあえずここまでにしておきます。
ちなみに、松本氏のシューズはすべてミズノで、

スピード練習
ウェーブクルーズ

距離走
ウェーブスペーサーGL

ジョグ
ウェーブスペーサーダイナと、上のウェーブスペーサーGLを履き分け
レースは奮発してミズノにオーダーメイドとのこと。
私はミズノはイダテンとアミュレットとネクサスしか使ったことがないので、今使っているシューズのどれかがヘタったら、試してみようかと思っています。

この本のおかげで、自分のトレーニングを見直したり、方法論や考え方を学んだり、モチベーションを上げたりすることができました。
月間走行距離の件や、LSDは不要など、自分と同じ意見が書かれており安心することができたし、駒沢公園で川内選手とトレーニングをしていた件も触れたりしています。
文章力があるためとても読みやすく、わかりきった内容の説明であっても、飛ばすことなくじっくり読めます。
Amazonのレビューには、本人の読解力がなかったり、的外れな意見があったりと、本の価値を落とす残念なレビューがあるのですが、自己ベスト更新を目指して地道にトレーニングをしている私にとっては、非常に役に立つ本であり、迷わず星5つを付けます。
中・上級レベルを目指して努力されているランナーさんには、オススメの1冊です。