2015/11/20

マラソンに関するウソ、ホント

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マラソンのトレーニングや走力アップ方法などに関する知識が増えだすと、多くのものが矛盾することに気付きます。

・LSD(ロング・スロー・ディスタンス)トレーニング
・エイドでの給食
・カーボローディング
・空腹時のトレーニング(腹ペコラン)
・糖質制限

これらの方法は正しいのでしょうか、間違っているのでしょうか。

・LSD

非常に遅いスピードで長い距離を走るトレーニングですが、最近ではこのトレーニングを勧めるコーチは少なくなりました。
勧める人の理由は、ゆっくり走ることで毛細血管が発達し、マラソン向きの体質になる。忍耐力や地力が付く。といった内容のものがあるのですが、Wikipediaでは、

Long Slow Distance(ロング・スロー・ディスタンス、LSD)は、ランニングやサイクリングにおいて有酸素持久力トレーニングの1形態を指す。LSDトレーニングにより、循環器系の機能、体温調節の機能、ミトコンドリアのエネルギー生産能力の向上、骨格筋の酸化容量の増加、燃料として脂肪を利用する割合の増加といった身体機能への影響がある。ドイツの医師でコーチでもあるエルンスト・ファン・アーケン(英語版)は、一般的に持久力トレーニングの方法としてLSDを確立した第一人者と目されている。
LSDトレーニングは、長い距離または期間にわたる低から中程度の強度一定の御ペースで行う継続的なトレーニング(英語版)の一形式である。中程度の強度で行うLSDは、あまりトレーニングを積んでいないか、あるいは適度にトレーニングを積んだ人にとって、有酸素摂取量と最大酸素摂取量を向上させる上で効果的である。より強い練習強度を必要とするような、よくトレーニングを積んだ人がLSDを行ったとしても、更なる代謝の調整能力を向上させる上では効果的ではないものと考えられている。

とあります。書籍や雑誌などでLSDを勧めるコーチは、キロ7~8分という遅いスピードで長時間走りましょうと説明していますが、こんなに遅く走る必要はないですよね。もっと速いほうが心拍数も血圧も血流も上がるので、毛細血管への血液の流れも高まるはずだし、Wikipediaにあるプラス効果も、どれも遅く走る方が有利とは言えないことばかりです。
そのため、何も極端に遅く走る必要はなく、通常のロング走を行えばいいはず。初心者はそのロング走がキロ7~8分近くなるのでLSDペースとなりますが、他のランナーさんのロング走はこんなに遅くはならないと思います。

無理に遅いペースで走ればフォームが乱れやすいし、トレーニング時間も浪費してしまいます。それならジョグかそれよりも速いペースでのロング走をした方がトレーニング効果ははるかに高くなります。
私も実際に試したことはありますが、走力アップ効果はまったく感じられず、単なる修行のように感じたので、かなり早い時点でLSDは行わなくなりました。ジョグペースや、レースペースよりもやや遅い、一般的なロング走で十分です。



・エイドでの給食

マラソン大会では適度な距離にエイドがあり、水やスポーツドリンク、暑い時期は水を含ませたスポンジが用意されており、自前のスペシャルドリンクを置いて飲める場合もあります。
しかし、スポーツ競技としてだけではなく、イベント的要素の高いマラソン大会が人気となってしまい、そんな大会のエイドでは、バナナやオレンジといったものだけでなく、カステラ、饅頭、チョコレート、きゅうり、ミニトマト、うどんやそば、ミニケーキ、お汁粉、ウインナーなど、あやゆる食べ物が並んでおり、これが楽しみという大会も増えました。
NHKのランスマでも、エイドでいろんなものを食べる楽しさを強調していますが、そもそも物を食べながら走るのはお腹によくないと小学生の時に先生に注意されたような。NHKもランスマでなく、ためしてガッテンならアウトな行為ですよね。

それよりも疑問に感じるのは、物を食べてから消化吸収するまで多くの時間を要するため、マラソン中に食べてもエネルギーに変える時間が間に合わないという点なんですよね。
食材にもよりますが、物を食べてから胃で消化されるまで2~3時間ほど。腸で吸収されるのが7~9時間ほど。胃や小腸で消化吸収されるまでの時間はトータル9~12時間もかかるのだから、レース中に食事を食べても、それがエネルギーとして使えるのは、ゴールして帰宅して洗濯しながら風呂に入り、晩飯を食べようとする時間にようやく利用できるのですね。そのためレース中の食事は、レースを完走するためには使えず、疲れ切った身体の疲労回復や損傷した筋肉の修復に使える程度となります。

それに、水やスポーツドリンク、あるいはジェルなど、消化吸収が高速なものは有効ですが、消化吸収の遅い一般的な食べ物は、その食べ物をお腹に入れてゴールまで運ぶだけでなく、消化吸収する胃腸に血液が必要になるため、身体の負担が増すばかりという、非常に無駄な行為になってしまいます。

私はレースでは、水かスポーツドリンクを取るようにし、自分で持参する場合はお守り程度にジェルを持つだけで、エイドに並んだ食品を食べたことは一度もないです。あの食べ物は、コースの途中でなくゴール後に用意して欲しいです。



・カーボローディング

レース前に炭水化物を多く食べ、走るために必要な糖質を身体に蓄えるという方法。
これも非常におかしい。

走るためのエネルギーは、筋肉や肝臓に蓄えられたグリコーゲンを使い、これが枯渇気味となると、酸素を使って脂肪を燃焼させ、それをエネルギーとして使う仕組みとなっています。

詳しく言うと、食事から取り込んだ栄養(糖や脂肪)と、呼吸から取り込んだ酸素で酸化させてATP(アデノシン三リン酸)という物質が、細胞内のミトコンドリアで作られます。
ATPという物質は、ADP(アデノシン二リン酸)に、リン酸(Pi)が3つ結合したもので、ADPからPiが分解されるとエネルギーが放出され、そのエネルギーで筋肉を収縮させ体が動くという仕組みだそうです。
ATPがADPとPiに分解されエネルギーが放出されたあとは、再び再合成されるため、エネルギーを出し続けることができます。

脂肪+酸素

ATP再生

ATPをADPとPiに分解

エネルギー発生、筋肉収縮

脂肪+酸素

ATP再生・・・  こんな感じでしょうか。

エネルギーを供給する方法は3つあり、

ATP-PCr系(無酸素性エネルギー供給システム)
解糖系(無酸素性エネルギー供給システム)
有酸素性

これらのシステムのおかげでATPが再生されエネルギーを出し続けることができます。
3つのうちの1つだけが使われるわけではなく、実際には同時進行されているそうなんですが、ここで注目の特性がありまして、上記のATP-PCr系でのエネルギー供給システムは、たったの7~8秒しか使えないそうです。
そのため、投てきやジャンプなど、一瞬にして大量のパワーを使う場合に有用なシステム。

次に解糖系ですが、これがたったの33秒ほど。100mや200m走などに有用なシステム。
そのため、ATP-PCr系と解糖系の無酸素性エネルギー供給システムをフル稼働しても、理論上では約40~41秒しか使えないとのこと。

その後に大活躍するのが有酸素性でのエネルギー供給システムで、これは大量の酸素を利用して脂肪として蓄えられた糖質を燃焼させ、長時間に渡ってエネルギーを供給できます。

食事から得られた糖質は、グリコーゲンか脂肪の形で蓄えられます。グリコーゲンは肝臓や骨格筋に蓄えることができますが、その量はわずかで、中長距離やマラソンの場合は脂肪の利用が不可欠。
マラソンランナーは、脂肪を利用しATPを反応させてエネルギーに変える能力と、そのATPのあるミトコンドリアの数を増やすことが要となります。

これらの仕組みを考えると、肝臓や骨格筋に貯めることができるグリコーゲンは貯蔵量に限度があり、マラソンで使うためにはかなり少ない。そのため、カーボローディングで一気に糖質を増やしたところで、グリコーゲンが満たされたあとの余剰分は中性脂肪として蓄えられるだけなんですね。
日に日に体重が減っているような人なら、グリコーゲンの蓄えも少ないので、カーボで満タンにするというのなら納得ですが、普段のトレーニングと食事で体重が増減しないのなら、グリコーゲンは十分満たされているはず。
それに、長丁場のマラソンは、すぐになくなってしまうグリコーゲンを使うことよりも、脂肪を使うことの方が重要なので、グリコーゲンを満タンにしたところで大した効果はありません。

更にカーボローディングをする期間は、レース前の調整週なので、いつもよりトレーニング量が落ちています。そのため、今まで通りの食事量では多すぎます。その状態で意識的にカーボローディングをすると、カロリーオーバーになりやすい。
結局、カーボローディングで得られたのは脂肪のみ。脂肪なんて捨てるほどあるので、あえてレース前に増やす必要などありません。
なぜカーボローディングが有効なのか、上記の仕組みが前提にあると、あらゆる情報に当たっても理解できないのですよね。

実際、私もレース前にカーボローディングをしましたが、体重が1kgほど増えてしまいました。そして、カーボローディングをしたレースもしないレースも何の変わりはなく、カーボローディングをしなかったレースでハンガーノックをしてしまったこともなければ、タイムが大幅に落ちたこともないです。
それよりも、前日の晩飯で炭水化物だけでなく、タンパク質やビタミン、塩分、水分など、あらゆる栄養をまんべんなくしっかり摂ることの方が重要のように感じました。



・空腹時のトレーニング

最も空腹の時間帯である朝にトレーニングをすると、脂肪を燃焼する能力が高まるため、脂肪を燃焼させて走る必要があるマラソンには効果があるという理屈のようですが、これは上記の消化と吸収の時間や、エネルギー供給システムを理解するとおかしいことがわかるはずですよね。

空腹の場合と、食後の空腹ではない場合の違いは、胃や腸に食物があるかないかの違いであって、エネルギーを供給するためのグリコーゲンや脂肪、ミトコンドリアの量は同じですよね。そのため、空腹であってもそうでなくても、走るためのエネルギーの原料や放出方法に変わりはありません。
もし実験で、朝と夕とでエネルギーの消費量が違うとしても、それは空腹が理由ではなく、寝起きで身体がなまった状態からランニングを開始するため、朝の方が負担が大きいからであって、同じ朝ランであれば、前日の19時に食事をしようと、未明の3時に食事をしようと、ほとんど変わらないはずと思うのですが、どうなんでしょう。

それに、ランニングができる時間は、出勤前かつ朝食前の早朝か、帰宅後の晩飯前の夜しかできないため、この時間は基本的に空腹の状態。腹ペコランなんてことを考えなくても、必然的に空腹時に走っているはずなんですよね。
脂肪を効率良く燃焼させることを考えるのであれば、食事の時間を考えることよりも、ロング走を行えばいいはず。距離が長ければ長いほど脂肪を使う時間も長くなるので、このシステムのレベルアップが確実にできると思います。


・糖質制限

普段の糖質(炭水化物)の摂取量を減らせば、脂肪の利用効率が高まるため、走るために効率のいい体質になるというのが主な理由。
これも空腹時のトレーニングと似たような理屈になるようですが、この糖質制限で一番問題なのは、制限することで脂肪の使い方が優れるようになるプラス効果よりも、糖質不足でトレーニングに力が出ないマイナス効果の方が高いと思うのですね。

マラソンはいかに長い距離を走るかを競うスポーツではなく、決まった距離をいかに速く走るかを競うスポーツ。長さを競うのであれば、脂肪を徹底的に使うトレーニングが必要ですが、タイムを競うスポーツの場合は、脚力や心肺機能のレベルアップを優先すべきで、そのトレーニングをすることにより、必然的に脂肪をうまく使えるミトコンドリアが増加した身体に変化します。
そのため、トレーニングで精一杯力を発揮できるような状態に整えておくことが最優先であって、糖質制限でエネルギーが枯渇気味だったり、ハンガーノックのような状態になってフラフラで走っていては話にならないのですよね。

糖質制限でのプラスの面は、脂肪の燃焼効率を高めることよりも、減量に効果があると思います。体重が重ければ身体の移動も負担が大きくなるので、マラソンではできるだけ軽い方が有利です。ただ、これも度が過ぎるとトレーニングどころではなくなってしまうので、微妙なさじ加減が必要。
結局、糖質制限はどの程度制限するのかが非常に難しく、うまくいかなかった時のリスクが大きい。

そしてこの糖質制限は、極端な肥満の方や糖尿病患者の食事療法の一つで、その予備軍でもある運動をせず食べてばかりのメタボな人たちにも有効な療法であって、全く正反対の生活をしているランナーさんの場合は、マイナス効果が高いのは言うまでもありません。
それに、サブテンを何度も出している川内選手は、大量の炭水化物を食べるとで有名です。他の番組でも、学生との合同練習に参加し、学食でカレーを食べている姿を映していたのですが、ありえないほどのご飯を食べていました。これで実業団をも上回る実績を上げています。糖質制限が効果的と考える方は、この事実をどう説明できるのでしょうか。

現在の食事量で、太ることなくしっかりトレーニングができているのなら、今の炭水化物量は正解。
太っているのなら炭水化物を減らせばいいし、トレーニングで力が入らないのなら、炭水化物を増やすべき。
バランスがいいのにあえて糖質制限するくらいなら、今からロング走を1本走ってきた方が、脂肪からエネルギーを作る能力が高まるかと思います。
食べることを考えるよりも、走ることを考えた方が断然簡単で確実です。



というわけで、自分の考えを適当に書いたのですが、自分が調査した科学的な根拠やデータなどはなく、参考にした書籍は「中距離走トレーニング」やWikipediaが主です。



この本の著者は、城西大学経営学部准教授で、城西大学男子駅伝部監督でもある運動生理学者。非常にわかりやすく解説されており、オススメの1冊です。

私が書いた内容に対して、異論、反論は当然あると思います。
でも、こういったいろんな方法論に振り回される人は、初心者か、上達に行き詰まっている人に多いと思うのですが、どうでしょうか。
あれこれと効果的な方法を探ることは一つの手段ではありますが、あまりにも情報に振り回されてしまい、肝心のトレーニングが棚の上になんてことはありませんか。

サプリメントなどもそうで、企業が高額の宣伝費を費やした上手な宣伝に乗せられてしまい、科学的根拠が曖昧で厳重な臨床試験に基づかず、プラセボ効果しか得られないようなサプリを信用してお金をつぎ込んでしまう。
もちろん、サプリにはそれなりの効果があるかもしれませんが、それ以上に効果があるのは複合的な栄養素がふんだんに含まれた一般的な食材であり、あらゆる方法論よりも効果的なのは日々のシンプルなトレーニングですよね。

普段からしっかり食べて、しっかりトレーニングをしていれば確実に上達するし、変わったことなどせずそのままの状態でレースに挑めば、トレーニングで努力した結果がストレートにタイムとなって現れるため、自分のトレーニングを純粋に評価することができます。カーボローディングのやり方が問題だったとか、サプリの摂り方がまずかったといった、的外れな理由付けをして納得してしまうミスを犯すことはなくなります。

人間の限界に挑んでいるオリンピック選手レベルなら、あらゆる科学的な方法を取り入れる必要があるかもしれませんが、私程度のレベルのランナーであれば、そんなことに振り回される必要などなく、レベルアップに必要な食事を食べて、レベルアップに必要なトレーニングをしていれば十分。2時間10分を確実に切れるレベルになれば考えるかもしれませんが、走力がまだまだ低い私の場合は、ウンチクよりも、サプリや栄養剤よりも、ひたすらトレーニングあるのみとだと思います。

シンプル・イズ・ベスト

私はこの考えでマラソンを楽しみ、着実に結果を残そうと思ってます。