「3時間切り請負人」が教える!マラソン<目標タイム必達>の極意 (SB新書)
目次を読むと、驚きの内容です。
特徴的な部分を抜き出してみると、
・「インターバル走」と「30km走」は効果なし
・スピードも持久力も10kmまでの積み重ね
・15kmのビルドアップ走で走力確認
・ウルトラマラソンも15kmまでの練習で十分
・3時間走や40km走なんていらない
・「20km走×1回」より「10km走×2回」
・レース中の糖質補給は効果を望めない
などなど。ビルドアップはラスト1㎞をレースペースまで上げるという負荷の小さいもの。
インターバル走や30km走など、
”嫌な練習、辛い練習はしなくていい”
というのが著者の基本スタンスのようです。
この著者は学生時代は陸上部。中学生から始めて競技歴は50年近く。
25歳で富士フイルムに入社し、陸上同好会に入会。
自己記録は27歳の時に出した2時間23分18秒。
34歳でミズノが主宰するランニングクラブに入会し、91年から監督に。
フルマラソンの完走回数は150回、サブ3は60回以上なんだそうです。
インターバル走とロング走を否定する理由は、
”マラソンは「スピード×持久力(スタミナ)」が2大要素と言われていますが、「ゼイゼイ」「ハアハア」と躍起になって追い込んでインターバル走をやってもスピードはつきませんし、歯を食いしばって頑張って30km走や40km走をやっても持久力(スタミナ)はつきません。基礎的な走力やスタミナが徐々に目減りしてしまうだけです。
マラソンは42.195kmという長距離を走るスポーツですが、基本的にはスピードも持久力も10kmまでの積み重ねでしか育たないというのが私の持論です。
私の練習法の基本は10km(60分)までのジョッグと週1、2回のビルドアップ走での基礎的な走力の確認です。”
という内容。インターバル走と30km走の否定的な意見は、しつこいほど繰り返し書かれており、文章にマーキングまでしてあります。経験談であり科学的な根拠はないようです。
実際にロング走を数回行い距離に対する抵抗感がなくなり、レースで後半ガタ落ちすることなく好タイムをマークできた方からすると「本当かよ!?」と思うのですが、この著者のトレーニング内容を見てみると、持久力強化が不要になるからくりがあるようです。
著者の1ヶ月分のトレーニング日誌が紹介されているのですが、1ヶ月のうち休養日は5回。
2部練習となっており、朝5km(1度だけ9km)と補強。
そしてメインが12km前後(最短8km、最長20km)のジョグ。ペースはキロ5分ほど。雨の日であっても走っています。
また、指導している女子のランナーさん(記録2時間49分21秒)のメニューも紹介されており、休みはレース前日の1日のみで、それ以外は毎日走っています。
距離は14~20km。ペースはキロ5分30秒~6分。副練習として毎日筋トレ(腹筋、背筋、腕立て)と、1日おきにトレッドミルで10km、もしくは14kmのジョグ。当然、雨天でもトレーニング。
確かにインターバル走もロング走も行っていませんが、これだけ連日走り続ければ、疲労がたまった状態でも走らなければなりません。
1日目、2日目はいいですが、疲労が残った3日目に走れば疲労の上塗りになり、更に4日目も走るとなれば、1日目のジョグとは負荷が違ってきます。そして5日目も走れば、ロング走に匹敵するほどの負荷になってきます。しかも、2部練でも走る。
女子ランナーさんの場合だと、1日おきで30km走を、2日おきになれば2部練での走行もあるので、2日おきでフルマラソンを走るほどの距離となります。
1度に30kmを走るのと、15kmを2日に分けて走るのでは、全然負荷は違ってきますが、毎日休まず連続で、しかも2部練でも1日おきに走るとなれば持久力はつきますよね。月間走行距離は、著者は417km、女子ランナーさんは599.2kmとなっています。
なるほど、これならロング走はなくてもいいのかもしれませんし、10kmやハーフのレースでなくフルマラソンのレースのみを目標にすれば、スピードトレーニングも必要はないのかもしれません。
以前、フルを2時間20分ほど走るエリートランナーさんのトレーニングをチェックしたことがあったのですが、このランナーさんの場合も、休みなく毎日20kmほどの距離をジョグペースで走り、休日はロング走を行い、スピードトレーニングは一切していませんでした。
このランナーさんはロング走を確実に行っていましたが、目標をフルマラソンに置けば、毎日走ることでスタミナは強化できるし、スピードトレーニングはいらないのかもしれません。
ただ、この著者の問題点は、インターバル走やロング走を
”嫌な練習、辛い練習”
と見なしています。だからこのような特殊なメニューになったのかもしれません。ここは私と正反対。
私の場合は、ロング走のスタミナメニューも、インターバルやペース走などのスピードメニューも大好きです。
テンションが上がる競技場のトラックで、マラソンよりもはるかに速いペースで走るペース走やインターバル走は、苦しさに耐え鬼の形相で走っていますが、あんなに頑張って力を出すことなんて、マラソンのトレーニング以外ではないです。
あそこまで頑張れるのは、仕事でも私生活でも一切ないです。辛さを越え快感になります。
何もかも忘れて「ギャー!」と大声で叫んでいるほどの爽快感があります。
そのため、このトレーニングが終わったあとの精神的な開放感と満足感は非常に高く、走力アップだけでなく、ストレス発散にも役に立っています。
そしてスピードトレーニングは、高い心拍数を維持したまま走る続ける能力を鍛えることができるので、最大酸素摂取量やLT値の向上が望めます。そのため、5000mや10000m、駅伝でのレースでは好タイムをマークできるようになります。特に年齢が上がると心肺機能や脚筋力のパワーがガタ落ちするので、ハーフ以下のレースに出るのであれば、スピードトレーニングは重要になってきます。
ロング走も同じで、25km以降から現れる独特の疲労感や足の痛みは、10~15kmのジョグでは味わえないもので、この部分をいかに切り抜けるかを考えて走るとおもしろい。
20kmを越えた辺りから、同じペースで走っているのに心拍数がじわじわと上がるし、フォームも乱れやすくなるし、給水をしたかどうかでも体調が変わってきます。
どうすれば楽に走れるのか。どうすれば今のペースを維持できるのか。
そういったことを考えながら試行錯誤できるのも、持久的な疲労の度合いが大きいロング走の利点。
そして、公園の周回コースだけでなく、海沿いや山間などを、ツーリング気分でロングランしたりするのもおもしろいし、行きは走り、帰りは電車やバスで帰るようにすれば、びっくりするほど遠くまで行くことも可能です。
こいうったトレーニングっておもしろいし、楽しいですよね。
辛く嫌なトレーニングにはなりませんよね。
逆に、この著者のような、似たような距離を似たようなペースで毎日欠かさず走るようなトレーニングの方がはるかに辛い。
雨の日も風の日もひたすらジョグだなんて、修行のようで嫌になってしまいます。
飽きずに末永く続けるには、豊富なトレーニングの種類と、強度のメリハリがポイントなのは言うまでもありません。
この著者の場合は、学生時代も陸上、就職しても陸上、クラブでは監督と、マラソンが趣味の範疇を越え、義務や仕事のようになっています。
走ることが仕事となれば、いかに楽に済ませるか、いかに低負荷でこなすかということが重要になり、苦しくも楽しかったはずのトレーニングが逆転してしまいます。
トレーニングが辛い、嫌だと思うようになったら、マラソンを趣味として継続できなくなってしまいますよね。
今はマラソンのトレーニング本がたくさん出版されていますが、走力別には書かれているものの、年齢別では書かれていません。
マラソン大会の参加者を見ても、圧倒的に40歳代が多く、中年になってからマラソンを知り、レベルアップを目指している方が多いと思います。私もその一人です。
中年ランナーの場合は、回復力が遅いし、若くないのに無理をして故障もしやすい。
でも、加齢でドンドン体力が落ちるから、できるだけ早いうちに走力を上げておきたい。年々、年老いることを思うと、3~5年程度でサブ3.5やサブ3などのキリのいい目標をクリアしておきたいというランナーさんが多いと思います。
そういったランナーさんが参考にすべきトレーニングは、目標を達成した同じ境遇のランナーのトレーニング方法ですよね。
若い頃から陸上漬けの一般的ではないランナーさんの話を聞くよりも、オッサンになってからマラソンを知り、試行錯誤しながら走力を上げ、上位レベルまでステップアップしたランナーさんの方法論の方が、実践的で効率的で説得力があるかと思います。
ランニング雑誌でも、レベルの高い市民ランナーさんのトレーニングを紹介しているコーナーがありますが、ああいった情報の方がはるかに役に立つと同時に、モチベーションも上がります。
トレーニング方法に万人向けの正解はなく、自分で試して結果を出せたらそれが正解なので、著者のような個性的な方法論も出てきて当然。
しかし、一番重要なのは、
トレーニングが楽しいか?
走ることがおもしろいか?
トレーニングが辛いから嫌だと思うようになり、それを避けるようになったら終わりだと思います。
私の場合は、おもいっきり速く走ることが最高に気持ちいいです。長く走ることがとてもおもしろいです。のんびり走るジョグも、ポイント練習の疲れを抜いて次に繋げる休養も好きです。だからマラソンが楽しいのです。
私がこの本で学べた部分、自分の考え方が正解だったと気付けた部分はここでした。
そのため、この著者の通勤ランのようなトレーニング法は、お金をもらってもやりたくはないです(^^ゞ