持論ですが、タイトルに対する回答は、
"走力レベルを上げるには、超回復という身体能力を利用するしかないのだから、それを活かしたメニューを組むべき"
これに尽きます。
超回復というのは、ウエイトトレーニングではお馴染みの言葉ですが、自分の身体に強烈な負荷をかけると、筋繊維が破壊されます。いわゆる筋肉痛ですね。
すると、こんな負荷をかけられては身体が危険と判断し、破壊された筋繊維の修復時に、以前よりも強い筋肉に強化して治そうとします。
運動後の48~72時間あたりに起こると言われるその回復期間に、栄養と睡眠をとってじっくり休ませることでパワーアップした筋肉が作られ、その強くなった筋力を使い、更に強いトレーニングを繰り返すことで、筋力を徐々にパワーアップさせる仕組み。
これは腕や胸など目に見える筋肉だけでなく、負荷をかけられた心肺機能も内蔵も、そして修復をコントロールした頭脳も鍛えられると思います。マラソンの場合は、酸素を取り入れ血液を介して筋肉に運ぶ能力が高まるだけでなく、血液のポンプである心臓の肥大化も進み、安静時の心拍数が下がります。
以前NHKで、ゲブレシラシエ選手の心臓をMRIで映しだしていたのですが、異常と思えるほどすごく大きな心臓でした。心臓は筋肉の塊です。
マラソン大会に出られた方は、この超回復を経験されていますよね。
大会で走った翌日は、足がガクガクになるのですが、スロージョグなら走れなくもない状態だったりします。
しかし、2日後にはその足が筋肉痛となってさらに痛みが増し、ジョグどころかウォーキングも厳しい状態に。そして異常に腹が減り、何もかもが美味しく感じられ、睡魔がひどくなります。この段階が超回復なんですね。
この回復が終わり疲労が抜けだすと、脚力アップされるので、その後の走りが楽チンになり、次戦が楽しみになったりします。
サッカーや野球、テニス、柔道など他のスポーツは、筋力や心肺機能だけでなく、反射神経や俊敏性、動体視力、瞬間的なパワー、計算力が高い頭脳など、多くの能力を駆使しないといけないのですが、ただひたすら走るだけのマラソンは、技術的には簡単なため、トレーニングでは、
・速く走る練習
・長く走る練習
・回復させる練習
・超回復を促す休養
という4つのメニューを組み入れて、強度を徐々に上げていけば、走力は確実にアップします。
ただ、超回復というシステムの効果を上げるには、自分の走力の限界に近い強い負荷をかけないことには、この筋力のままではヤバイと判断できないため、回復時に増強されません。
ポイント練習というハードなトレーニングを、徹底的にハードにしないとダメなんですよね。
ポイント練習をハードに取り組めるようにするには、どうすればいいかを考えると、
・事前に疲労を抜いておくこと
・身体が鈍らないように適度なランニングをしておくこと
・故障やケガを防ぐため、補強を行っておくこと
・十分な栄養を摂っておくこと
これって、大会前の調整メニューですよね。
つまり、ポイント練習=マラソン大会と考えればいいわけです。
川内選手は、ポイント練習は週に2回行っているそうですが、シーズン中は本命のレースだけでなく、ローカルな大会やハーフや10km、駅伝など、数多くのレースに出場しており、これらのレースがポイント練習となっています。
一般的な市民ランナーは、こんなに多くのレースに出るには、費用や時間、体力の確保が難しく、仕事や私生活に悪影響が出てしまいますが、普段のポイント練習を、大会本番の意気込みで取り組めば同じことになるわけですね。
ポイント練習前には調整メニューをこなしておき、当日はランシャツ・ランパン・レースシューズの大会同様の装備にし、走行の邪魔をされないトラックや公園の周回コースを選び、ロング走であれば、コース脇に給水用のドリンクボトルをスタンバイさせておく。
・アップをしながら本気モードに切り替える
・スタート前に、自分のマラソンの目標を唱える
・確実に指定ペースやタイムを守る
・絶対に手を抜かない
・考えて走る、集中して走る
・超回復を促すほどの負荷をかける
これらのことを意識しながら、レース本番の気持ちで走るようにするのです。
そして、ポイント練習の強度を上げ、走力のレベルアップにつなげるには、ポイント練習前後のトレーニングメニューが非常に重要になってきます。
ポイント練習を日曜日に行うと仮定すると、
金 身体をほぐすためのジョグ10km
土 ジョグに流しを数本入れての刺激入れ
日 怒涛のポイント練習
月 足の張りをほぐす回復ジョグ
火 超回復を促す完全休養(栄養と睡眠)
水 ジョグと補強
木 ジョグ
といった感じでしょうか。1週間でポイント練習を2回入れるなら、水曜か木曜のジョグをサブ的なポイント練習にすればいいかと思います。
ポイント練習2日後は、朝起きてトイレへ行くのも足が痛くてつらい。ジョグどころかウォーキングもしんどい。お腹が空いて睡魔がひどい。
このような症状が出ていればポイント練習は大成功。
逆に、この日に通常のジョグができてしまうようでは、前回のポイント練習も今回のジョグも脚力アップにはつながらず、単なる時間つぶしのランニングとなります。
ランニング雑誌に紹介されている、エリートランナーさんのトレーニングメニューを見ると、ポイント練習がビックリするほどハードなものの、他に日のメニューはスロージョグや通勤ランなど、初心者ランナーさんが行ってるのと変わらぬ強度。トレーニング強度の差が大きいのですよね。メリハリ重視。
逆に、走力がある程度のレベルで停滞しているランナーさんのメニューを見ると、似たようなランニングを繰り返すばかりのため、走行距離は異常に増えるのですが、たまに行うポイント練習の強度が低く、疲労が大して残らず超回復の必要がないため、ポイント練習後も日課のようなランニングが継続できてしまい、一向に走力アップができないまま目標の壁の厚みが増すだけとなっているようです。
同レベルのランナーよりもはるかに多いトレーニング距離や、それに費やした時間が多いにも関わらず、大会で目標に到達できない理由は、自分のトレーニング方法やトレーニングに対する考え方に誤りがあるのが原因なんですよね。でも、間違いなんて認めたくないから、我流を押し通し続けてしまい、大会で次々と目標をクリアするランナーさんを横目で見ながら、悔しい思いを繰り返すばかりになるのだと思います。
マラソンの大会は1年周期なので、結果が残せなかったときの徒労感は大きく、加齢によるパフォーマンスダウンも相まって、ますます目標は遠のきます。
目標に達した理由はトレーニング内容のおかげ。
目標に達しなかった理由はトレーニング内容が原因。
マラソンの結果は良くも悪くもトレーニングの質次第であり、現在の自己ベストの理由は、自分のトレーニング日誌やGPSログに書いてあります。
効率良く効果的なトレーニング方法は、ポイント練習をレース本番と思って徹底的に追い込むようにすることと、そのハードなポイント練習を成功させるために、ジョグと休養を充実させることが最も重要だと思います。
川内選手のトレーニング方法がまさにこれであり、レースをポイント練習とする実践的で超ハードなトレーニングと、温泉治癒での疲労回復や、キロ5分ペースのジョグなどにより、仕事は午前中程度で終わることができ、栄養が計算された食事を提供してもらい、十分な睡眠時間が確保され、トレーニング時間を山ほど利用できる実業団ランナーをも、凌駕することができるのですよね。見習わない手はないです。
故障なくポイント練習を成功させるにはどうすればいいか?
超回復の効果を活かすにはどうすればいいか?
ハードなポイント練習を行うには、準備と回復の期間が必要なので、日数的に週に1~2回が限度。そして、数回繰り返せば走力が上がるわけではなく、段差の低い階段を一段一段登るかのごとく、何度も何度もトレーニングを繰り返す必要があります。
本格的なトレーニングは、レース月から逆算して3か月前から開始するのが一般的ですが、月に6回ポイント練習が行えるとすれば18回のみ。
しかし、レースはまだまだ先の今の段階から、無理しない程度に少しずつポイント練習を重ねていけば、猛暑日を除いても30回くらいはできるのではないでしょうか。この30回すべてに、超回復の効用が得られたとすれば、大幅なレベルアップが望めるかと思います。
この差は大きいです。
あまりストイックなトレーニングばかりではつらいので、つなぎのジョグはコースを変えたり、のんびりトレランをしたりなど、気分転換を行いつつ、頑張るときは徹底的に頑張るようにすれば、楽しいランニングを継続できるし、レースでは大いに喜べる結果が残せるように思います。
この考え方を常に意識しながら、来シーズンに向けても頑張るつもりです。